【鬼太郎誕生ゲゲゲの謎】ミーハーこそ楽しめるめちゃくちゃみなぎる目玉おやじのルーツ

※ネタバレあり

父が、妖怪大好きな人で、いつも妖怪の話を聞かされて脅かされてた。僕や兄を脅かして夜に眠れなくさせた父は母にしこたま怒られてた。そういう経緯もあってか、今でもあまり妖怪は好きになれない。ゲゲゲの鬼太郎は子どもの頃から当然知ってるけど、初期ゲゲゲの作画を再放送か何かで見たときに「あぁ、これは受け付けないやつ」と感じたから、嫌いというわけではないけど敬遠してた。
「夏休みに再放送される、ちょっとおどろおどろしい歴史あるアニメで、地獄先生ぬ~べ~よりは妖怪が気持ち悪くない」
……その程度の認識。

大人になって、好きなものだけじゃなく人から勧められるいろんなものも摂取するようになった。そうする中で、自分が全く興味のない、なんなら敬遠してるものでも選り好みせずに摂取するとそれなりに発見があって、新しい考え方をするきっかけになったり、自分の価値観のシンクロを感じて再認識できることを知った。今回の『鬼太郎誕生ゲゲゲの謎』は、まさしくそういうタイプの映画だった。

昔ながらのゲゲゲと思ったら大間違い

昔ながらのゲゲゲの鬼太郎というと、おどろおどろしく、不気味で、醜い人間が出てきて欲にまみれて痛い目見るんだけど、なぜか鬼太郎は人間との共存を掲げてて助けようとする、作画が独特でちょっと素朴な作品……みたいなかなり偏った印象があった。

でも、鬼太郎誕生ゲゲゲの謎は確かにそういう要素も踏襲しつつ、

  • アクションシーンが秀逸
  • 醜い人間が洗練され胸糞
  • ハートフルドラマが胸熱

という、従来の鬼太郎の要素をまんべんなく整えつつ振り切って緩急をつけた感じに仕上がってた気がする。

妖怪ガチヲタやゲゲゲファンには、従来の要素がもしかしたら薄まった感覚になって物足りなかったかもしれないけど、ゲゲゲの陰気くさい感じが苦手な人やミーハーにとってはすごく敷居が下がってて楽しめる作品だったと思う。

そもそも僕は妖怪にトラウマめいたものがあるにも関わらず、鬼太郎誕生ゲゲゲの謎には感動したから、よっぽど映像作品としてのクオリティが高いんと思う。

もはやジャンプアニメ!アクション作画が必見の価値あり

何よりも、アクションシーンにめちゃくちゃ感動した。作画がジャンプアニメかと思うくらいにぬるぬる動いて派手で、キャラの動作の反動までがすごいダイナミックに描かれてる。エフェクトだって鮮やかで細かくて本当に圧巻。

戦闘のスケールも従来の鬼太郎よりも大きくてワクワクするし、みなぎる。自動追尾型のリモコン下駄もパワーアップした感じで縦横無尽に動いてた。

「え、鬼太郎の一族ってそんなにつおいの?」みたいなのも描写的に感じ取れて、毛針、下駄、ちゃんちゃんこなどのアイテム頼みだけじゃなく、力こそパワー!速さこそスピード!な部分が見れてちょっと感激。こんなにも「ゲゲゲ」にエキサイトするなんて夢にも思わなんだ。

映像の伏線がいい意味でわかりやすい

ストーリーのその後の展開を予測させる伏線の、

  • 背景
  • 小物
  • キャラの振る舞い

などが絶妙にわかりやすい。連続アニメだと伏線が散りばめられすぎて何度か復習しないと回収が大変だったりするけど、映画の場合は1本完結だからこそ「匂わせ」の具合がすごく絶妙。伏線が何もなければつまらないし、かと言って複雑だとわけわからないし。鬼太郎誕生はその真ん中を行けてる感じがした。

たとえば、

  • 同じ石畳を同じ角度で描いてるけど時代変化による風化を表現してる
  • 物語の核心部分を示す最序盤の印象深いオブジェクト

などなど。これらが記憶に容易に残って、ちゃんと映画を観ながら思い出せて、その描写の意図がわかるっていう、なんとも気持ちいい体験。わかりやすすぎず、わかりにくすぎず。

臆病な権力者や村八分の描写の胸糞さが秀逸

  • いざという時に従者を盾にして逃げる権力者
  • よそ者はどんな手を使っても排除せよ的な頭悪い村八分
  • 伝統だ血脈だと言いつつ己の利権目的の一族

を、これでもかってくらい胸糞に表現していて、非常によき。どんな作品でも思うけど、あの噛ませ犬な感じで虚勢を張って勝利を確信してるように見せるけど全然爪が甘くて、最後の最後で絶対にやられると判断したら泣き落としや見当違いな提案をして狡猾に騙そうとする権力者って、清々しいほどクズで醜くてかわいそうで、逆に可愛く見えてくるまである。

村の先代の遺言状の内容を聞きに一族が集まるけど、広間で全員フォーマルな黒服に身を包んで両端に一列ずつ並んで正座してはいるものの、心の中は全員が「己に渡ってくる遺産や権力の勘定」でギットギトっていう、考えただけでも血の気が引いて意識朦朧とする気持ち悪さも見事に表現されてて、あっぱれだった。

古い漫画で『ザ・シェフ』というのがあって、その中で主人公の祖母(資産家)が、病に倒れて親族が集められるシーンがある。普段は寄り付きもしない遺産目当ての奴らが、いそいそと寝たきりのおばあさんを心配するフリをして、裏では誰がたくさん遺産をもらえるかで醜く口論をする───今回の鬼太郎誕生の中でも似た描写があることを考えると、いつの時代もこういう人間がいるってことだし、なんならすぐ身の回りにほど居るかもまであるし、それを前提として生きないと、性善説の期待からの落胆と失望で厭世感を抱いてしんどいなぁ~なんて考えさせられた。

鬼太郎のお父さんがかっこよすぎ

ズルい。誰もが知ってる甲高い声の可愛らしいコミカルな目玉おやじの「もと」が、あんなにも

  • イケメン
  • うでっぷし強い
  • 勇気の塊
  • 超優しい
  • ユーモアある
  • 銀髪

ような男だったなんて、非常にズルいって。けしからん。最高。

たぶん、シンプルに銀髪に弱いんだと思う。FF7セフィロス、DMCダンテ、DQのテリー、ダイ大ヒュンケル、フリーレン、ニャル子、アビスナナチ、とあるインデックス……(自重)

野沢雅子さんの目玉おやじが感慨深い

「テレビアニメ」そのものの歴史と伴走してきたとも言えるゲゲゲの鬼太郎。ゆえに何度か声優交代を経てきたわけだけど、現在の目玉おやじの声優さんが、鬼太郎の初代声優である野沢雅子さんというエモさ。レジェンド同士の暗黙の継承みたいなものを感じるし、リアルな命やドラマを感じる。それだけで感激する。

世代的には幼児期にドラゴンボールZ直撃だから、今や世界に誇れる元サブカルの歴史の変遷を、人生かけて作られてきた方々の文字通りの伝説ができていく様を目の当たりにできてることは、非常に幸福なことだと感じた。

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』 Amazonプライムビデオ

タイトルとURLをコピーしました