【正欲】2Eギフテッドの不協和感とペドフィリアと定型発達の対比をうまく描いた邦画

※ネタバレあり

日常で定型発達に擬態しながら、それ以外の何かに強い情熱や意識を向けるのは、ある程度の知能指数がないとできないこと。

ネットフリックスで公開されてる『正欲』の劇中、水フェチの3人は、仕事を卒なくこなしてる。これだけ世の中が、不況だ経済苦だいじめだ◯◯ハラだ炎上だポリコレだと騒いでる昨今、波風立てずにひっそりと、でも堅実に日常生活を営みつつ、それぞれのフェチを隠しつつ、時に発散する術を模索するのは、並大抵のワーキングメモリでできることじゃない。

当然それによるストレスや孤立感、社会からの隔絶感を抱いてる描写はあるけれど、たとえば軽度であれ知的障害があったりれっきとした発達障害のみを持ってる場合は、「適応するフリ」すら非情に困難であることは、当事者はもちろん、世にあふれるニュースやドキュメンタリーの特集などをさらえば誰でもカンタンにわかる。

劇中の1:15:18付近で、

「人間とは付き合えない」
「命の形が違う」
「地球に留学してる感じ」

というセリフがある。こういったセリフから分かる通り、人間社会を超えて自然も含めた、とても広い意味での「世の中」という抽象を、実感し、どうにか形容し、論理的に言語化しようと試みる時点で、ギフテッドの不協和感に通ずる。その感覚自体は不可抗力的な部分があるから仕方ないけど、だからと言って人間の価値や幸福との因果はないって事実認識が欠如してる点で、彼らは生きづらさを感じてしまう選択をし続けてきた。

全員、自意識過剰

全員、自意識過剰

人間、寝てる時は何も感じてないし考えてないし覚えてない。起きてる間にあれやこれやと脳内で問題をこさえてああだこうだと悩み苦しむ。でも体は寝てる時でも動いてる。つまり、意識は生存を肉体にお任せしたままちゃっかり睡眠をとりつつ、起きてる時はあたかも「自分の力で生きてる」とクソデカ勘違いして、アウトオブコントロールなことに執着する。
アウト・オブ・コントロールなこと=いまここにないこと

いまここにないこと
  • 過去
  • 未来
  • 他者の心

つまり、自意識そのものがいまここにないことに向かって、後悔、不安、恐怖、見栄、意地、恥、卑下などの問題を作り出してる。本来はひたすら無数の現象があるだけなのに、無限に問題認定するのが大好きな「意識」という存在が、人間の本体。

この映画の登場人物にも如実にそれが表れてる。誰が何を好きだろうが、何が怖かろうが、何に興奮しようが、本来は「ご自由にどうぞ、お幸せに」というだけの話。
人の自由を奪う自由は身勝手で犯罪だけど、それ以外は本当に自由が保証されてて、安全も保障されてる日本。自由を侵害する人間を見極める眼力さえ養えば、最高の国にもう僕らは住んでる。でも何も行動せず思考せず他責思考でいるとどんどん自分が「ダメ」に思えたり、逆に自分の正しさをやたらと主張したり、自由を侵害する人間たちに消費・浪費・利用・搾取されるようになる。そして人を道具化し始め、負の連鎖が起こる。(自己卑下・自己正当化・苦労の美化)

劇中で言うと、

  • お腹の大きいおしゃべり客
  • 男性恐怖症の子
  • 水フェチダンスマン
  • 頭の堅い検事さん
  • 水フェチ夫婦

が顕著。

お腹の大きいおしゃべり客は、言ってることが全部ブーメラン。発言から、同調圧力であせって結婚して子ども作ってお腹大きくなったけど、家庭に居場所がないのか孤独であることが推察される。毎日のように家具店に入り浸って、何も言い返してこない独身のちょっと若い可愛らしい店員にマウント取ることで憂さ晴らし。
自己卑下→自己正当化→苦労の美化→人の道具化。

男性恐怖症の子も、「異性愛者の全員が異性を性対象として見てる」というバイアスが強すぎる。思い込みで人を判断してる時点で、同族嫌悪であることがわかっていないから自分が特殊だと勘違いして自己憐憫に陥り、陰から気になる男を逐一チェックしてスクショ集を作ったりする。
自己卑下→自己正当化→苦労の美化→人の道具化。

その他の登場人物も総じて同じ心の流れからの振る舞い。

自意識過剰をやめるには

自己正当化や苦労の美化をしてしまう理由は、視野が狭かったりランダムなバイアスがかかってたりして自意識過剰になってるから。それを洗脳と言ったりもするけど、己の価値観や基準がしつこい油汚れみたいにカチカチのネバネバになってる自覚って本当に大切。

己の洗脳に気づいたらもう勝ったも同然。あらゆる分野のたくさんの人と出会ったり興味のないことを試してみたり、どんなことでも肯定と否定の両極から考えることで、どんどん脱洗脳が進む。

ペドフィリアの原因は幼少期の被虐待経験

ペドフィリア(小児性愛)の原因は幼少期のひどい被虐待経験が引き金の場合が多い。人間は、幼少期に得られなかったものを生涯追いかけ続ける傾向がある。

幼少期に「存在そのもの」をありのまま愛されなかった、否定され続けた人は、以降それを生涯求め続けて、それを得られている人を妬んだり羨んだりする。

ペドフィリアは、小児性“愛”とは付くものの、其の実、キュートアグレッションであったりする。

キュートアグレッション

かわいいものを見た時、どうしていいかわからなくなって、潰したり壊したりしたくなる感覚。

愛なら、対象を傷つけたり苦しめることはなるべくしないでおこうとするし、そのために対象の心や体、過去や思考を理解しようとする。

でも◯◯性愛とつく性癖やある種の精神異常は、真逆のことをする。端的に言うと長期にわたって対象にトラウマを植え付けるような行為を「初手」でする。

初手というのは、時系列的に、

  • 言い出しっぺ
  • ケンカを売る
  • 一方的
  • 最初

ということ。

たとえばメンヘラと呼ばれる人たちが誰かに攻撃的または嫌がる振る舞いを取った時に、当然その誰かは正当防衛や反撃をするが、その正当防衛や反撃をメンヘラたちは「被害」と見なし、その被害妄想を不特定多数の「時系列を知らない人」に吹聴し、信じた人たちを味方に引き入れる。

たわごとを信じた人たちが事後、仮に真実を知ったとしても自己正当化のマインドがバイアスになって受け入れられず、火種は大火事になっていく。

だからといって本当の被害者側が正当防衛や反撃をしないと一方的にサンドバッグになる。非常に巧みで計算され尽くされた冤罪と言える。

つまり、精神異常とは言えど、ある程度は知能指数が高い人がこの「初手で巧みに仕掛ける」ができ、混乱を招くことができる。

これを見極めて適切な判断を下せるほど正確な結びつけと思考ができるのは、それを凌駕する知能を備えたギフテッドしかおらず、統計的に1%未満とも言えるから、世の中から「ややこしい問題」が消えない。

劇中で言うところの検事さんも、文系のトップオブトップとも言える検事という職業に就けるほどの知能を持ちつつ、バイアスが邪魔して最適解を出せないくらいだから。

  • 時系列の整理
  • 科学的な事実確認
  • 周囲の誤解を解く
  • 周囲からの理解を深める

ややこしい問題の対策にはどうしても時間がかかる。しかも秒で対策ができたところで、〇〇性愛や精神障害の根本的な原因である「幼少期の愛情か教養の欠如」の問題は解決されないから、人類の歴史という大きなスケールで見た時も、悲惨な事件はなくならない。

ギフテッドの全体最適化能力

劇中、「この人はギフテッドだな」と感じる登場人物が2名いた。

  • ダンスチームリーダー高見
  • NPO団体らいおんキッズ右近

この二人は、全体最適化に尽力してる。立場としての責務を全うしつつ、それ以外の部分でのフォローのために実際に考えて行動してる。真のギバーでもある。

多様性にフォーカスしたイベントを持ちかけた?男性恐怖症の子の相方は、IQは高い定型ムーブ濃厚。信念のもとでちゃんと行動して現象を変えようとしてるように見えるけど、信念に強いバイアスがかかってて思い込みの善。マジョリティを先導できる、経済的に成功するタイプ。

同じく検事さんは、旧態依然の世の不条理や矛盾をねじ伏せる論理的な知能を持ってるけど、やっぱりバイアスは強くて、パートナーや子が抱える問題を適切に把握して最適解を出す能力が欠落してる。

大切なのは、共通して強弱の序列があること。嗜癖持ち、豆腐メンタル、自意識過剰、被害妄想、エゴイズムetc。

確かに存在する見えない序列を実感しつつ、バイアスにも気づきつつ、全員を満遍なく理解して暫定的な最適解を出そうとし、適材適所を考えられる高見と右近は、ギフテッド特性がかなり強いと言える。

統計的視点と現象の注視で人生が変わる

  • 自分って、変じゃないのかも?
  • 実は、自分も人も思い込んでるだけなのかも?

統計的視点と現象の注視で、あらゆるバイアスが外れる。

世界人口が80億人いるとしたら、「人間」という生き物が80億匹いるんじゃなくて、80億種類の「違う生き物」がいると捉えるほうが自然。

比較不可能なものを前提・目的・定義が曖昧なままで比較しようとすることで、疎外感を抱く。それが寂しさや劣等感に繋がって、序盤に書いた自己卑下→自己正当化→苦労の美化が起こる。

  • 問題を生み出してるのは意識。
  • 人間のポテンシャルは、内発的・利他的な動機によって最大化する。
  • 「イヤだな」という気持ちがストレスホルモンのコルチゾールを分泌させ、その最果てには殺人か自殺が100%ある。
  • 多様性に富むほど種の存続に有利。
  • どんな人間でも共感者・理解者がいる。

これらウパニシャッド哲学、発達・教育心理学、認知科学、統計学、遺伝子学のファクトだけも、人間が自傷的思考や思い込みから解放されるには十分だと、再認識できるおもしろい映画だった。
『正欲』を観る

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